カフカ的状況を解決する

カフカ的状況、というものがある。カフカ作の小説「変身」や「城」に出てくる、主人公が不可思議に行き詰まりを体験している状況だ。そこでは主人公は事態の解決に向けて奮闘するものの、周囲の状況すべてが逆風として働き、いつまでたってもゴールへと至れ…

短編小説『暗黒』を公開しました

Pixivで自作の短編小説『暗黒』を公開しました。挿絵は伊関さんの手によるものです。 次のリンクから閲覧できます。 ただしレーディングがR18-Gであるため、Pixivのアカウントが必要になります。また、設定のページから「年齢制限作品」を選び、R18-Gの表示…

生きていることに意味はない

これからの人類は「生きていることに意味はない」という真実とどう向き合っていけばいいか、その態度を問われることになるだろう。というか、もうすでに問われている。目に見える現象としては少子化がそれだ。 子供を作ることが不可能ではないはずなのにそう…

『僕の名はポイチョフ』の構想

僕は『カラマーゾフの兄弟』を敵視している。憎んでいると言っても過言ではないだろう。ドストエフスキーが現代に甦ったら、目の前までいって顔面に右ストレートをぶちこんでやらないと気が済まない。その程度には怒っている。 なぜ僕はこの作品を敵視するの…

いまの僕の生き甲斐

僕は死に瀕している。体は健康なのだが、心が死にそうなのだ。仕事はつまらなく、異性にはモテない。友人はまったくおらず、現実でもネットでも話し相手すらいない。趣味も特にない。だから僕はあらゆる意味で孤独だ。ついでに言うとお金もないので、現実的…

心という機械と小説の関係性

今日はより良い小説を書くために我々はどうするべきかという話をしたい。 僕の考えでは、人間の心は機械である。小説は人間の頭の上で実行することが可能なプログラムだ。人間の頭はインタプリタなので、ソースコードそのままの形である小説を実行できる。実…

いま魅力のあるコンテンツは何か

いま世間で流行っている一番魅力のあるコンテンツは、ライブ配信と炎上だ。ここで言う炎上とは、たとえば2023年の1月に起きたスシローのぺろぺろテロ、およびそれに集中した批判のことを指している。 いかなる小説も漫画もゲームも、この二大コンテンツには…

影と鏡像6

本稿では心の入れ替えという作用について記す。 セルバンテスのメソッドは典型的な入れ替えの例である。セルバンテスは人間の心が意識と無意識の二層に分かれていることを喝破し、かつそれぞれの層が抱えている感情を入れ替える方法を発明した。それがすでに…

『心は孤独な狩人』を読む

村上春樹の訳でカーソン・マッカラーズの『心は孤独な狩人』を読んだ。とてもいい小説だった。それについて書く。 本作の中心人物は聾唖のシンガーである。彼を軸に言葉というテーマがかたちを変えて幾度も語られている。多くの人物がシンガーに向かって言葉…

見るなの禁とエディプス・コンプレックスの共通点

最近、夏目漱石の『三四郎』を序盤だけ読んだ。そこで僕はどうにも驚かされた。まさに冒頭がエディプス・コンプレックスの話型だったからだ。列車内で見知らぬ年上の男性が、主人公の目の前で若い女性と親しげに話をするという形で二人は結合するのだが、し…

仲がよいことは醜悪である

僕は美しいことが好きである。醜い絵や音楽は嫌いで、美しい絵や音楽が好きだ。この趣向は芸術だけではなくあらゆる事象におよんでいる。人の歩く姿や話す声の響きや思考の方法にも善い悪いがあるというのが僕の考え方で、当然悪いものは蛇蝎のごとく嫌って…

善意とは何であるか

人は何をするにしても他者を害しうる存在である。道を歩くことひとつをとってもそうだ。他者の前に立てばとうぜん相手は通行できずに迷惑するだろう。あるいは人前で言葉を発することもそうだ。言う内容はもちろんのこと言葉遣いをひとつ誤るだけで人は相手…

『オイディプス王』を読む

福田恒存の訳で『オイディプス王』を二度読んだ。それで思ったことを書く。 『オイディプス王』は数で言えば素数である。つまり分解というものができない。むしろ他のさまざまな合成数をかたどっていく素と言えるべき作品だ。だからこの作品そのものを細かく…

『スローターハウス5』を読む

早川書房から出ているカート・ヴォネガットの『スローターハウス5』を読んだ。それについて書く。 この小説で書かれていることはひとつだけだ。それは人が戦争に――というよりも戦争を含めたありとあらゆる理不尽な災いに――直面したときに尊厳を傷つけられた…

『ユービック』を読む

フィリップ・K・ディックの『ユービック』を読んだ。それについて書く。 この作品にはあらゆるところに「二つの力の対立」というモチーフが姿を見せる。ランシター合作社とレイモンド・ホリスの対立もそうだし、超能力者と不活性者の対立もそれに当たるし、…

誰も僕のブログを読まない

僕は物語を読み解くのが得意だ。たとえば映画『君たちはどう生きるか』の記事を書いたが、アオサギが零戦のメタファーであることをネット上に発表したのは僕が初めてだと思う。少なくともこのことについては僕が一番乗りというわけだ。 しかし誰も僕のブログ…

映画『君たちはどう生きるか』を観る

映画『君たちはどう生きるか』を一回観た。それについて書く。この記事はネタバレを含んでいる。 この映画の最大の特徴は、説明がさっぱりないことである。この場面にはこんな意味がある、ということが示されないまま次の場面へと移っていく。そういう意味で…

『スプートニクの恋人』を読む

村上春樹の『スプートニクの恋人』を二回読んだ。とても良い小説だと思った。それについて書く。 まず確認しておきたいのは、この小説は構造の読解がむずかしいということである。読みやすい小説だし、良さも実感しやすい。村上春樹を読んだことがない人にも…

『高い城の男』を読む

フィリップ・K・ディックの『高い城の男』を読んだ。面白かったので、それについて書く。 物語の名作というのは多くの場合、読者に対して優れた問いかけをする。もっと言うと、読了後にもやもやした気持ちを抱かせる。読者はその作品の登場人物や事件につい…

『流れよわが涙、と警官は言った』を読む

フィリップ・K・ディックの『流れよわが涙、と警官は言った』について書く。 本書のクライマックスは主人公タヴァナーがメアリー・アン・ドミニクと出会い対話をする場面である。我々はそこで愛情の持つ大いなる力に撃たれることになる。今まで自分がいかに…

『国境の南、太陽の西』を読む

村上春樹の小説にくりかえし現れるテーマとして、完璧にくっついている一組の男女というものがある。たとえば『ノルウェイの森』のキズキと直子がそうである。 「私たちは普通の男女の関係とはずいぶん違ってたのよ。何かどこかの部分で肉体がくっつきあって…

『古事記』を読む2

古事記に海はくりかえし登場する。イザナギとイザナミが矛を突き立てる原初の混沌も、たぶん海がイメージの源なのだろう。その後にイザナミの死を経過してから、イザナギは三貴子を産む。このときにスサノオは海を治めるよう命じられるが、従わない。彼は成…

『青い花束』を読む

岩波文庫の『20世紀ラテンアメリカ短篇選』で、パスの『青い花束』を読んだ。非常に短い作品だがとてもよかったので、この記事を書くことにした。 この作品の物語展開は四つに分けられる。まず特に意味を持たない描写だけのパートがあり、次に世界の美しさを…

影と鏡像5

影と鏡像は負の姿である。それは正の姿としては、古事記における二ということになる。西洋的な価値観から古事記における二の姿を見ると、それは影と鏡像として目に映る。 古事記における二は、代表的なものとしてはやはり結婚する男女である。彼らは持ち物を…

『街とその不確かな壁』を読む

村上春樹の『街とその不確かな壁』について書く。 この本は別段面白くはないし感動的でもない。文章そのものにもこれといった刺激や独特の味はないから、読者としては最初から最後まで同じ味のコース料理を食べさせられているような気持ちになる。 それは仕…

『古事記』を読む1

いま僕は河出文庫の現代語訳の『古事記』を読んでいる最中だ。全体の1/3まで読み進めた。今日はここまでで心に留まったことを書いてみたい。 登場が多いのはともかく海と男女である。海と男女のことばかりが書かれていると思っていいかもしれない。 エピソー…

『書記バートルビー』を読む

光文社古典新訳文庫で『書記バートルビー』を読んだ。面白かった。いや、面白いというよりは胸にささる切なさがあった。 この作品の良さはオチにある。結末において、実はバートルビーが「配達不能郵便物局」の下級職員だったことが明かされる、その瞬間の衝…

僕には自分の意見がない

僕は文系の学問に興味がない。思想も哲学も評論も無視してきた。今も無視している。最近になってその理由が分かったので、ここで述べてみたい。 それは、僕には自分の意見や望みがないということだ。だから自分の考えや、人や社会はこうあるべきだという理想…

『1Q84』を読む4: 卵型の比喩

リトル・ピープルに対抗するもの。それこそが個人の願いである。自分固有の願いを持ち、育て、また自覚すること。それを守り切り、かなえること。これが『1Q84』の打ち出した中心的なテーマだ。 村上はそれを強調するために卵型の比喩というテクニックを用い…

『1Q84』を読む3: リトル・ピープルの正体

前回の記事で、見えない力が作用して、作用される側が力を行使するという構造について言及した。これはリトル・ピープルについても同じことが言える。 その前に確認しておくこととして、抑圧された怒りの発揮という構造がある。ある人物が他者から被害を受け…