2020-01-01から1年間の記事一覧

『風の歌を聴け』を読む

村上春樹の『風の歌を聴け』について書く。 本書は次のような文学論から始まっている。 「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」 しかしこの後すぐにデレク・ハートフィールドという作家について、その素晴らしさと自…

『グレート・ギャツビー』を読む

グレート・ギャツビーの実質的な主人公であるジェイ・ギャツビーは、典型的なドン・キホーテ型の主人公である。ドン・キホーテが騎士道物語という魔法を信じていたように、彼もまた若い頃の恋愛という魔法を信じている。ドン・キホーテが鎧を着込んでいたよ…

『大聖堂』を読む

レイモンド・カーヴァーの短編『大聖堂』について書く。 この作品において盲人とはつまり読者のことを指している。小説家は読者に対してすべてを言葉で説明しなければならない。テレビのような分かりやすい絵を提示することが出来ないのはもちろんのこと、目…

『祖母の記録』を読む

円城塔の短編集『バナナ剥きには最適の日々』を読んだ。そこで本稿では短編『祖母の記録』について論じてみる。 ブラックボックスの構造について この短編集には「自我が箱の中に閉じ込められている」という構造が随所に出てくる。表題作においても探査球の…

「分からない」から「分かる」へ、「分かる」から「分からない」へ

本記事では『ノルウェイの森』から『騎士団長殺し』までの、村上春樹の「分かる」ということへの姿勢の変化について語る。 『ノルウェイの森』と『ねじまき鳥クロニクル』 『ノルウェイの森』と『ねじまき鳥クロニクル』はセットの作品である。前者が意図せ…

『HUNTER×HUNTER』を読む

今回は漫画『HUNTER×HUNTER』について、思いつくままに書いてみることにする。まとまりのない記事になっている。 ルールを守る ゴンとヒソカはよく似ている。彼らはルールに対する執着心があり、それをよく守る。例えばゴンもヒソカもハンター試験に参加し、…

留保のない怒りはありうるのか

前回に引き続きヒストリエを考察していく。 ヒストリエのテーマは個人の自由と怒りである。この二つは不可分に結びついており、分けて考えることができない。どういうことか。 ヒストリエにたびたび見られる現象に、怒りによって組織が崩壊してしまう、とい…

世界で最も偉大な小説と二番目に偉大な小説

愚かな物好きの話 世界で最も偉大な小説はセルバンテスの『ドン・キホーテ』である。特にその中の短編『愚かな物好きの話』がそうだ。セルバンテスはそこで小説におけるもっとも基本的なテクニックを構築し、誰にでもわかる形で明らかにしてみせた。 それは…