村上春樹のウィズザビートルズについて

村上春樹の短編『ウィズ・ザ・ビートルズ』は、内容が優れていることはもちろんだが、何より見るべきなのはその文体である。それは読みやすさというものに全てを懸けた文章だ。彼がそのような文体を作る理由は簡単で、良い言い方をすれば平易な書き方をする…

『スワンの恋』を読む

プルーストは『失われた時を求めて』を書くに当たって、作中にいくつかの山場を設定した。彼は大変長い物語を読むのは読者にとって苦痛であることを承知していたので、彼らが最後まで興味を失わずに読み進められるよう、エンターテイナーとして盛り上がると…

視覚というテーマ

次の引用はスティーブン・キングの『IT』の序盤で、主人公ビル・デンブロウが猛烈な勢いで自転車を漕いでいる場面。ビルは吃音の少年である。 彼は走る。ハンドルにおおいかぶさって。けんめいに走る。 カンザスとセンターとメインの三叉路がみるみる近づく…

『天気』について

日本語の散文詩を色々読んできたが、その中で最も優れたものは西脇順三郎の『天気』だろう。 (覆された宝石)のやうな朝 何人か戸口にて誰かとさゝやく それは神の生誕の日。 この詩が一番であるということは直感で分かる。問題はなぜそうなるのかという理…

カラマーゾフの兄弟について

ドストフエスキーは考えていた。小説『ドン・キホーテ』のもっとも重要なポイントとは何かを考えていた。それは『愚かな物好きの話』で開陳されたような読者の心理を正反対に誘導するテクニックだろうか? それともドン・キホーテのような愚かな(しかしそれ…