2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『スプートニクの恋人』を読む

村上春樹の『スプートニクの恋人』を二回読んだ。とても良い小説だと思った。それについて書く。 まず確認しておきたいのは、この小説は構造の読解がむずかしいということである。読みやすい小説だし、良さも実感しやすい。村上春樹を読んだことがない人にも…

『高い城の男』を読む

フィリップ・K・ディックの『高い城の男』を読んだ。面白かったので、それについて書く。 物語の名作というのは多くの場合、読者に対して優れた問いかけをする。もっと言うと、読了後にもやもやした気持ちを抱かせる。読者はその作品の登場人物や事件につい…

『流れよわが涙、と警官は言った』を読む

フィリップ・K・ディックの『流れよわが涙、と警官は言った』について書く。 本書のクライマックスは主人公タヴァナーがメアリー・アン・ドミニクと出会い対話をする場面である。我々はそこで愛情の持つ大いなる力に撃たれることになる。今まで自分がいかに…

『国境の南、太陽の西』を読む

村上春樹の小説にくりかえし現れるテーマとして、完璧にくっついている一組の男女というものがある。たとえば『ノルウェイの森』のキズキと直子がそうである。 「私たちは普通の男女の関係とはずいぶん違ってたのよ。何かどこかの部分で肉体がくっつきあって…

『古事記』を読む2

古事記に海はくりかえし登場する。イザナギとイザナミが矛を突き立てる原初の混沌も、たぶん海がイメージの源なのだろう。その後にイザナミの死を経過してから、イザナギは三貴子を産む。このときにスサノオは海を治めるよう命じられるが、従わない。彼は成…

『青い花束』を読む

岩波文庫の『20世紀ラテンアメリカ短篇選』で、パスの『青い花束』を読んだ。非常に短い作品だがとてもよかったので、この記事を書くことにした。 この作品の物語展開は四つに分けられる。まず特に意味を持たない描写だけのパートがあり、次に世界の美しさを…