2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

怒りについて

読者への怒り 次の文章は『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』から。主人公・多崎つくるが夢を見ている。 その音楽を無心に演奏しながら、彼の身体は夏の午後の雷光のような霊感に、鋭く刺し貫かれた。大柄なヴィルテュオーゾ的構造を持ちながらも…

逆方向の力

本稿では前回(リンク)に引き続き『1Q84』について議論をする。そのために次のような形で先行する文学作品が『1Q84』に影響をおよぼしていることを説明する。 『失われた時を求めて』 → 『豊饒の海』 → 『1Q84』 『1Q84』と『失われた時を求めて』 『1Q84』…

卵を温めることについて書いた小説

卵型の暗喩 小説『1Q84』の中核を成しているのは卵型の暗喩である。同作には容器や部屋にまつわる表現が多様な形をとって随所にあらわれるが、それらはいずれも「卵を温めてヒナを孵す」という行為のヴァリエーションになっている。いくつか例を挙げて確認し…

『象の消滅』を読む

村上春樹の『象の消滅』について書く。 『象の消滅』は大半の文章が象の説明に割かれている。『僕』と『彼女』の話は長さとしてはわずかであり、象の消滅の持つ意味を再確認する役割を担っている。 この作品は全体が二重の入れ子構造になっていると捉えるこ…

『パン屋再襲撃』を読む

村上春樹の『パン屋再襲撃』について書く。 『パン屋再襲撃』を読み解く鍵は、一度目の襲撃の時に主人公がパン屋からもちかけられた取引にある。 主人公とその相棒はむかし、夜遅くに包丁とナイフをボストン・バッグに詰めてパン屋を襲ったことがあった。あ…