『外套』を読む

ゴーゴリの短編小説『外套』を岩波文庫の平井肇訳で読んだので、それについて書く。 物語の大枠 この小説は基本的にはリアリズムで書かれている。人物の外見や事物の描写は細かく的確であり、生活や仕事のことまで踏み込まれて書かれている。そのような文体…

『ゲンセンカン主人』を読む

つげ義春の短編漫画『ゲンセンカン主人』について書く。 この作品の物語にわかりやすい意味や論理といったものは存在しない。ともかくラストのコマの衝撃がすべてである。これはただ読者の心理にショックを与えることだけを狙いとして制作された漫画だと言っ…

『BECK』を読む

ハロルド作石の漫画『BECK』について書く。 『BECK』の中心的なテーマは、正と負の融和である。すなわち、うらぶれた物や汚い物、罪や影といった物と、きれいな物との融和である。それが細かい描写から小さなエピソード、物語の根幹にまでよく表されているの…

物語におけるエディプスコンプレックスについて

漫画『推しの子』を読んだ。面白かった。母親を溺愛する男の子が、母親を殺した主犯(と思われる)父親を探し出して復讐を企むという筋書きである。これは「父親を殺して母親を娶る」というエディプス王の話型を変形したものだと僕は受け取った。 映画・エヴァ…

『黒猫』と『アッシャー家の崩壊』を考える

僕はホラー物が好きでない。小説も漫画も映画もホラー物は鑑賞しない。怖いことを楽しいと思えないのと、どうもホラーは純然たるエンターテイメントでしかないという印象があって、興味が湧かないのである。 ポーの『黒猫』も『アッシャー家の崩壊』も初読は…

二つの道

物語の普遍的な構造の一つに二つの道というものがある。楽な道と困難な道の二つが主人公の前に示されており、主人公はどちらを選ぶか逡巡するというものだ。 それは通常、どちらが楽でどちらが困難なのか、そしてどちらが正しくてどちらが間違っているのかは…

『ドラゴンボール』の物語を考える2

前回の記事でピッコロ大魔王編を考察した。次はラディッツの襲来からフリーザとの闘いで終わるサイヤ人編について考える。 サイヤ人編では悟空の罪というものが強調される。このことは悟空が大人になったことと深い関連がある。一般的に言って大人になること…

『ドラゴンボール』の物語を考える

漫画『ドラゴンボール』の中心にあるものは、あらゆる願いを叶えるドラゴンボールという宝と、主人公の孫悟空である。彼の特徴は無欲なことだ。 「でもオラはべつに願いごとなんてねえから このじいちゃんの形見の四星球さえ手にはいりゃいいんだ!」 (単行…

『納屋を焼く』を読む

村上春樹の短編『納屋を焼く』について考察する。 普通に読むと、納屋を焼いたことが原因となって「彼女」が失われたように読者には思われる。それはたいそう不思議なことであり、親しい友人が失われてしまったことの衝撃が印象に残る作品となっている。 こ…

『ダブリナーズ』の構造を読み解く

前回の記事からの続きである。 基調とカウンター 年齢構成 テーマと結論 ストーリー構成 『死せるものたち』を精読する 基調とカウンター 金銭による取引は上手く行かない。あるいは下劣な結果となる。 男女関係は上手く行かない。あるいは下劣な結果となる…