『ダブリナーズ』を概観する

ジョイスの『ダブリナーズ』を柳瀬尚紀訳で読んだので、それについて書く。 この小説の中心を貫く構造はソーントン・ワイルダーの戯曲『わが町』に似ている。そっくりと言っていい。事件性の少ない市民の生活の描写が物語の殆どを占めており、最後にそれを死…

村上春樹の文体の最大の特徴

『ノルウェイの森』以降の村上春樹の文体の最大の特徴は、文末に「である」または「であった」を置くことを避ける点にある。 「である」という断定は父性的である。それは「だ」という端的な、目の前にある事物を単にそのまま肯定するだけの断定とは在り方を…

『金閣寺』の物語について

幼時から父は、私によく、金閣のことを語った。 『金閣寺』において父という存在は重要である。金閣寺の美について主人公に教え込むのは実の父親であり、それを表す文が最初に置かれているからだ。 作中に、父親的な登場人物や存在が多い。 実の父親 田山道…

『日はまた昇る』を読む

ヘミングウェイの『日はまた昇る』を高見浩訳で一度だけ読了した。 ともかく一度目の感想としては、まったく面白くなかった。名高い古典でこれほど退屈な読書体験は珍しい。一体作中で何が問題になっているのか、何を面白いと思えばいいのかさっぱり分からな…

『金閣寺』の文体について

三島由紀夫の『金閣寺』の文体について書く。 金閣寺の文体の特色として、文末が多彩なことが挙げられる。次に例を引用する。 寝ても覚めても、私は有為子の死をねがった。私の恥の立会人が、消え去ってくれることをねがった。証人さえいなかったら、地上か…

『二つの心臓の大きな川』を読む

ヘミングウェイの『二つの心臓の大きな川』を三回読んだ。それについて書く。 この作品は『日はまた昇る』同様にほとんど主人公の内面の描写に文章が割かれない。だが少ない心理描写に注目してみると、ニックはともかく森でのキャンプを謳歌しているようであ…

僕のやる夫スレ観

僕のやる夫スレ観は単純である。僕の書いた作品は面白いが、他の人が書いた作品はすべてつまらない。読むに値しない。それだけである。 何ヶ月かに一度、話題になるスレを開いてみてもいいと思うことがある。だが必ず20レス以内に読むことはやめてしまう。本…

ヱヴァンゲリヲン新劇場版を読み解く

これまで本ブログは二回に渡って『シン・エヴァンゲリオン』を読解してきた。本稿ではヱヴァンゲリヲン新劇場版を序から始めて最後まで読み解いていく。 一回目の記事 二回目の記事 エヴァンゲリオンは訳の分からない映画である。3作目のQから一体何がストー…

『ユニコーン』を読み解く

やる夫スレの作品に『ユニコーン』がある。これは完結した全てのやる夫スレの中ではもっとも面白いものだ。この物語は溢れんばかりの文学的な力を保持している。本稿ではこの『ユニコーン』を読み解いていく。 本作の中心的なエピソードは涼宮ハルヒから主人…

鉄道について考える

僕はVtuberの文野環ちゃんが大好きだ。そして文野環ちゃんは鉄道が大好きだ。それで僕も最近鉄道というものに興味を持ち始めた。好きにはなれそうにないのだが、知的好奇心を抱くことはできそうだ。そこで今回は鉄道というものについて、文学作品を中心に考…