入れ子構造とくりかえし

物語を入れ子構造にして、入れ子の外側と内側でそれぞれ同じ構造の物語を語ると、その作品は大きな効果を得る。 その種の作品として次の三つが挙げられる。いずれも以前に解説をしたので、各記事へのリンクを貼ったから、まずはそれらを読んでほしい。 象の…

『さよなら絵梨』を読む

藤本タツキの漫画『さよなら絵梨』を読んだ。それについて書く。 映画という芸術分野は、何が嘘か何が本当かというテーマについて深い興味を抱いているものだ。それは例えばタランティーノの『イングロリアス・バスターズ』や『ワンス・アポン・ア・タイム・…

『城』を読む (後半)

前回に引き続き、カフカの『城』を解読していく。本稿では後半を扱う。本稿で示すページ番号は角川文庫の原田義人訳の『城』にもとづいている。 『城』は、前半が問題設定のパートだとすると、後半は問題解決のためのパートである。未完の小説なので、まとま…

『女のいない男たち』を読む

村上春樹の『女のいない男たち』について書く。 この本は短編集だが、互いに関連のある話が並んでいる。短編は明確な狙いのもとに順番が定められており、一本目の『ドライブマイカー』で穏やかなスタートを切って、五本目の『木野』でクライマックスを迎える…

『城』を読む (前半)

フランツ・カフカの『城』を原田義人の訳で二度読んだ。それについて書く。 前提 本稿は、カフカの『変身』と村上春樹の『かえるくん、東京を救う』、またカフカの『城』の原田義人訳、そして次の記事を読んだ者を対象にしている。 riktoh.hatenablog.com 読…

『外套』を読む

ゴーゴリの短編小説『外套』を岩波文庫の平井肇訳で読んだので、それについて書く。 物語の大枠 この小説は基本的にはリアリズムで書かれている。人物の外見や事物の描写は細かく的確であり、生活や仕事のことまで踏み込まれて書かれている。そのような文体…

『ゲンセンカン主人』を読む

つげ義春の短編漫画『ゲンセンカン主人』について書く。 この作品の物語にわかりやすい意味や論理といったものは存在しない。ともかくラストのコマの衝撃がすべてである。これはただ読者の心理にショックを与えることだけを狙いとして制作された漫画だと言っ…

『BECK』を読む

ハロルド作石の漫画『BECK』について書く。 『BECK』の中心的なテーマは、正と負の融和である。すなわち、うらぶれた物や汚い物、罪や影といった物と、きれいな物との融和である。それが細かい描写から小さなエピソード、物語の根幹にまでよく表されているの…

物語におけるエディプスコンプレックスについて

漫画『推しの子』を読んだ。面白かった。母親を溺愛する男の子が、母親を殺した主犯(と思われる)父親を探し出して復讐を企むという筋書きである。これは「父親を殺して母親を娶る」というエディプス王の話型を変形したものだと僕は受け取った。 映画・エヴァ…

『黒猫』と『アッシャー家の崩壊』を考える

僕はホラー物が好きでない。小説も漫画も映画もホラー物は鑑賞しない。怖いことを楽しいと思えないのと、どうもホラーは純然たるエンターテイメントでしかないという印象があって、興味が湧かないのである。 ポーの『黒猫』も『アッシャー家の崩壊』も初読は…