入れ子構造とくりかえし

物語を入れ子構造にして、入れ子の外側と内側でそれぞれ同じ構造の物語を語ると、その作品は大きな効果を得る。

その種の作品として次の三つが挙げられる。いずれも以前に解説をしたので、各記事へのリンクを貼ったから、まずはそれらを読んでほしい。

上から順に要諦を述べると、『象の消滅』においては入れ子構造は、主人公によって語られる象の話が内側、主人公自身の話が外側なのだが、結局はどちらにおいても「見るなの禁」を破る話が語られる。『納屋を焼く』は、主人公と男の間で交わされる納屋を焼く話が入れ子の内側、そして彼女が失われる話が外側だとみなすことができるが、どちらも対象を見落としてしまう、失ってしまうということが語られている。『ゲンセンカン主人』においては、入れ子の外側は最初に出てくる影のような人物の話、内側は過去のゲンセンカンにおける男女のエピソードである。どちらにおいても間違った結合ということが物語られている。

さて、塔に登って高所から三つの話を見晴らしてみると分かるのは、つまるところどれも同じ話を二度繰り返しているに過ぎないということである。入れ子にして同じ話をくりかえすと、それだけで読者はノックアウトされてしまうのだ。

僕はこうした構造にとても興味がある。異なる複数の物語をひとつの作品内に配置する際に、どのような性質の物語をどのような順序で、あるいは関係性で置いていけば高い効果を得られるのか、ということに関心がある。今後もこの視点を失わずに物語を読んでいきたい。