『オイディプス王』を読む

福田恒存の訳で『オイディプス王』を二度読んだ。それで思ったことを書く。 『オイディプス王』は数で言えば素数である。つまり分解というものができない。むしろ他のさまざまな合成数をかたどっていく素と言えるべき作品だ。だからこの作品そのものを細かく…

『スローターハウス5』を読む

早川書房から出ているカート・ヴォネガットの『スローターハウス5』を読んだ。それについて書く。 この小説で書かれていることはひとつだけだ。それは人が戦争に――というよりも戦争を含めたありとあらゆる理不尽な災いに――直面したときに尊厳を傷つけられた…

『ユービック』を読む

フィリップ・K・ディックの『ユービック』を読んだ。それについて書く。 この作品にはあらゆるところに「二つの力の対立」というモチーフが姿を見せる。ランシター合作社とレイモンド・ホリスの対立もそうだし、超能力者と不活性者の対立もそれに当たるし、…

誰も僕のブログを読まない

僕は物語を読み解くのが得意だ。たとえば映画『君たちはどう生きるか』の記事を書いたが、アオサギが零戦のメタファーであることをネット上に発表したのは僕が初めてだと思う。少なくともこのことについては僕が一番乗りというわけだ。 しかし誰も僕のブログ…

映画『君たちはどう生きるか』を観る

映画『君たちはどう生きるか』を一回観た。それについて書く。この記事はネタバレを含んでいる。 この映画の最大の特徴は、説明がさっぱりないことである。この場面にはこんな意味がある、ということが示されないまま次の場面へと移っていく。そういう意味で…

『スプートニクの恋人』を読む

村上春樹の『スプートニクの恋人』を二回読んだ。とても良い小説だと思った。それについて書く。 まず確認しておきたいのは、この小説は構造の読解がむずかしいということである。読みやすい小説だし、良さも実感しやすい。村上春樹を読んだことがない人にも…

『高い城の男』を読む

フィリップ・K・ディックの『高い城の男』を読んだ。面白かったので、それについて書く。 物語の名作というのは多くの場合、読者に対して優れた問いかけをする。もっと言うと、読了後にもやもやした気持ちを抱かせる。読者はその作品の登場人物や事件につい…

『流れよわが涙、と警官は言った』を読む

フィリップ・K・ディックの『流れよわが涙、と警官は言った』について書く。 本書のクライマックスは主人公タヴァナーがメアリー・アン・ドミニクと出会い対話をする場面である。我々はそこで愛情の持つ大いなる力に撃たれることになる。今まで自分がいかに…

『国境の南、太陽の西』を読む

村上春樹の小説にくりかえし現れるテーマとして、完璧にくっついている一組の男女というものがある。たとえば『ノルウェイの森』のキズキと直子がそうである。 「私たちは普通の男女の関係とはずいぶん違ってたのよ。何かどこかの部分で肉体がくっつきあって…

『古事記』を読む2

古事記に海はくりかえし登場する。イザナギとイザナミが矛を突き立てる原初の混沌も、たぶん海がイメージの源なのだろう。その後にイザナミの死を経過してから、イザナギは三貴子を産む。このときにスサノオは海を治めるよう命じられるが、従わない。彼は成…