『1Q84』を読む1: 繰り返される「ヤナーチェック」

『1Q84』の最初の青豆の章には、文庫版では24ページの中に「ヤナーチェック」という固有名詞が13回も登場する。この繰り返しについて本記事では解説をおこなう。 セルバンテスは『ドン・キホーテ』中の短編『愚かな物好きの話』において、小説の最も基本的な…

The VinesのGet Freeを読み解く

The VinesのGet Freeは優れた歌だ。この曲の歌詞のポイントは"I'm gonna get free"と"She never loved me"の繰り返しにある。 www.youtube.com ボーカルのクレイグ・ニコルズは一体何から自由になりたいのであろうか。おそらく彼は人類に普遍的なある牢獄か…

『ゲド戦記 影との戦い』を読む

『ゲド戦記 影との戦い』は傑出した文学である。それは感触として分かるのだが、僕はまだその全貌を掴み切れていない。理解できたという感じがしないのである。それでもいくつか分かったことがあるので、ここに書いてみることにする。 まず冒頭の「ことばは…

村上春樹の『ウィズ・ザ・ビートルズ』について

村上春樹の短編『ウィズ・ザ・ビートルズ』は、内容が優れていることはもちろんだが、何より見るべきなのはその文体である。それは読みやすさというものに全てを懸けた文章だ。彼がそのような文体を作る理由は簡単で、良い言い方をすれば平易な書き方をする…

『スワンの恋』を読む

プルーストは『失われた時を求めて』を書くに当たって、作中にいくつかの山場を設定した。大変長い物語を読むのは読者にとって苦痛であることを彼はよく承知していたので、彼らが最後まで興味を失わずに読み進められるよう、エンターテイナーとして盛り上が…

『天気』について

日本語の散文詩を色々読んできたが、その中で最も優れたものは西脇順三郎の『天気』だろう。 (覆された宝石)のやうな朝 何人か戸口にて誰かとさゝやく それは神の生誕の日。 この詩が一番であるということは直感で分かる。問題はなぜそうなるのかという理…

分裂と統合・その2

岩崎夏海が喝破したようにすべての文学には分裂という問題がつきまとっている。 例えばレイモンド・カーヴァーの『ささやかだけれど、役に立つこと』では、前に考察したように、書き手の思いは幸福な人々と不幸な人々の二者に分裂している。またフィッツジェ…

『クララとお日さま』を読む

カズオ・イシグロの『クララとお日さま』について書く。 本作の物語は単純な一本道である。クララという召使い的な位置にいる主人公が、主人であるジョジーに奉仕し続け、最終的には主人を救い、そのために破滅に至るというものだ。 クララは盲目的にジョジ…

やる夫スレの作品一覧

自作のやる夫スレの一覧です。 bbs.yaruyomi.com

『シン・エヴァンゲリオン』を読み解く

本稿では映画『シン・エヴァンゲリオン』の物語を読み解く。 物語の骨子 エヴァンゲリオンのストーリーを把握するうえでもっとも重要なことは、巨大ロボットに乗り込むことは父性と母性の両方を象徴する行為だ、ということだ。鬼の面相をしたエヴァンゲリオ…