The VinesのGet Freeを読み解く

The VinesのGet Freeは優れた歌だ。この曲の歌詞のポイントは"I'm gonna get free"と"She never loved me"の繰り返しにある。

www.youtube.com

ボーカルのクレイグ・ニコルズは一体何から自由になりたいのであろうか。おそらく彼は人類に普遍的なある牢獄から逃げ出したい。それを打ち破り外に出たい。それが"I'm gonna get free"という叫びなのだが、その衝動に反対し、引き留めようとする者がいる。それが"She never loved me"である。

この曲は親の支配から自由になりたいという個人の魂の叫びを表現している。一般的に言って、親は子供を愛し、子供は幼い頃は親と自分が一体であるかのように感じる。次第に両者はぶつかり合い、子供は自我を確立させて親の元から巣立つのだが、そういう親離れが円滑にいかない者も中にはいる。親から充分に愛されなかった人たちだ。

素直に考えれば、愛情が薄いということから、彼らは親との結合力が小さいと解釈できるので、むしろ普通の人より早い段階で親の呪縛を離れても良さそうなものだ。しかし実際にはそうは行かない。彼らは逆にいつまでも親の歪んだ愛情に縛り付けられる。親との関係性は他者との関係性の基礎になるものだから、彼らはどんな他者とも上手く行かず、苦しめられることにになる。

歌い手はそういう自身の問題を看破し、そこから自由になりたいと願っているのである。彼は心の底では親と自分を分割し切っておらず、中途半端に、歪んだ形で繋がってしまっている。だから自由になりたいという願いは必然的に自己破滅的な雰囲気をまとうことになる。自分自身と未分化である親を攻撃する形になるからだ。そのような自暴自棄なエネルギーが歌声に乗っていると考えると、クレイグの歌の荒々しさが理解できるだろう。実際、MVでも彼らは稲妻を受けて倒れていく。Get Freeは優れたロックだ。この曲を聴けて良かったと僕は思う。