村上春樹の小説のどこがいいのかと聞かれたら

僕は今まで答えるのに困る問いがあった。村上春樹の小説をまったく読んだことがない人から「彼の作品ってなにがいいの?」と尋ねられた場合に、どう答えればいいか分からなかったのだ。

すでにたくさん彼の小説を読んだことがあるような人が相手なら、つまり村上ファンが相手なら色々と話すことはあった。ストーリーについてはもちろんのこと、細かいディティールについて言及することもできる。でもまったく読んだことがない人を相手に何を言えばいいのか、僕は常に困らされた。

しかし今日ようやく正しい回答が分かった。僕はこう答えるべきなのだ。

村上春樹の美点は、世界文学の作家として正当派であり、かつ大柄であることだ。彼は過去の巨匠の作品を熟読し、参照し、そこに課題を見出した上で、自分の頭で考えた回答をガツンとぶつけていく。つまり伝統を踏まえた上で、なおかつ独自のオリジナリティを持っている。その姿勢はじつに堂々としたものだ。たとえば『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』という作品では、村上はヘミングウェイの『日はまた昇る』や『武器よさらば』における主人公の、自己の感情を封じる姿勢に課題を見出し、その硬直性を解くためになにをするべきかを模索している。村上は本作において、不完全ではあるものの自分なりの回答と結論をきっちり出している。

あるいは『かえるくん、東京を救う』や『1Q84』においては、村上はフランツ・カフカの作品を参照し、カフカの提唱した問題を解こうとしている。その狙いはとても上手く行っているように見える。彼は『かえるくん、東京を救う』では『変身』を、『1Q84』では『城』を参照し、それらの中心にある問題を正しく解いている。

したがって世界文学のファンならば、ぜひとも村上春樹を読むべきである。我々は彼の作品からさまざまなことを学ぶことができる。

以上である。