多崎つくる

村上春樹の文章の特長

村上春樹の文章の特長について思う所を述べる。この記事は村上春樹を読んだことがない人でも読めるように書かれている。 テーマに沿ったリズム 村上は作品のテーマと合致した文章のリズムを作ることが上手い作家である。例えば『 色彩を持たない多崎つくると…

指の多義性

本稿では『多崎つくる』について、三つの項目を書いた。なおこれまでの記事はこちら。 二重の自己 『多崎つくる』の作中では、自己との解離、分裂、あるいは二重性という現象について繰り返し言及がなされている。 前回の記事で語ったように、主人公は自分の…

因果関係というテーマ

本稿はこちらの記事から続いている。 riktoh.hatenablog.com “無害” なミステリー小説 『多崎つくる』の主人公に与えられる問いは「友人に絶縁された理由は何か」というものだ。これは因果関係を把握するという問題に等しく、この種の問題意識が本作のあちこ…

影としての作品

本稿では『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が『1Q84』のペアとして存在している作品であることをまず述べる。その後べつの記事で、この事実を手がかりにして両作に共通する因果関係というテーマを読み解いていく。 自動車 vs 電車 『色彩を持た…

怒りについて

読者への怒り 次の文章は『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』から。主人公・多崎つくるが夢を見ている。 その音楽を無心に演奏しながら、彼の身体は夏の午後の雷光のような霊感に、鋭く刺し貫かれた。大柄なヴィルテュオーゾ的構造を持ちながらも…