『象の消滅』を読む

村上春樹の『象の消滅』について書く。 『象の消滅』は大半の文章が象の説明に割かれている。『僕』と『彼女』の話は長さとしてはわずかであり、象の消滅の持つ意味を再確認する役割を担っている。 この作品は全体が二重の入れ子構造になっていると捉えるこ…

『パン屋再襲撃』を読む

村上春樹の『パン屋再襲撃』について書く。 『パン屋再襲撃』を読み解く鍵は、一度目の襲撃の時に主人公がパン屋からもちかけられた取引にある。 主人公とその相棒はむかし、夜遅くに包丁とナイフをボストン・バッグに詰めてパン屋を襲ったことがあった。あ…

『豊饒の海』と『百年の孤独』の共通点

共通点を挙げる 『豊饒の海』と『百年の孤独』には共通点が多く、興味深い。まずは思いつくままにそれらを列挙してみよう。 物語の冒頭から終盤まで出ずっぱりの登場人物が一人いる。彼・彼女は若い頃は影が薄く、物語の主人公を他の者に譲っているが、終盤…

比喩を剥ぎとる

『失われた時を求めて』を本歌取りした小説 三島由紀夫の『豊饒の海』には『失われた時を求めて』のパロディ・シーンが数多く登場する。本稿ではまずその場面を拾い上げ、次にパロディの狙いについて考えていく。 例えば『春の雪』で清顕が聡子とともに雪の…

『ロング・グッドバイ』の三人の医者

探偵小説『ロング・グッドバイ』について解説する。本稿ではハヤカワ文庫の村上春樹訳を参照している。 三人の医者を評価するマーロウ 主人公である私立探偵のフィリップ・マーロウは、作中において三人の医者に会いに行く。彼らの内のいずれかが、捜索を依…