コスタリカ307

よいブログ。

1Q84

声を聴く

非対称な一対の存在 『1Q84』を読んでいてつくづく思うのは、この作品は論理の構築物であるということだ。これほど理路整然としたパズルも他にない。 たびたび本ブログでも指摘してきたが、同作には“海”を軸にした直喩が頻繁に登場する。これは“二つの月”と…

指の多義性

本稿では『多崎つくる』の異なる三つの項目について書いた。これまでの記事はこちら。 二重の自己 『多崎つくる』の作中では、自己との解離、分裂、あるいは二重性という現象について繰り返し言及がなされている。 前回の記事で語ったように、主人公は自分の…

因果関係というテーマ

本稿はこちらの記事から続いている。 riktoh.hatenablog.com 因果関係について 『多崎つくる』という物語において主人公に与えられる問いは、「友人に絶縁された理由は何か?」というものだ。これは因果関係を把握するという問題に等しく、この種の問題意識…

影としての作品

本稿では『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が『1Q84』とペアとして存在している作品であることをまず述べる。その後べつの記事で、この事実を手がかりにして両作に共通する因果関係というテーマを読み解いていく。 自動車 vs 電車 『色彩を持た…

分裂と統合

『1Q84』には同じ名詞や字句の繰り返しが作中に現れる。本稿では、その表現の持つ文学的な意味を探究する。 同じ字句の繰り返し 次の一文は、天吾が『空気さなぎ』の改稿の許可を得るために戎野先生に初めて会いに行く場面から引用した。 呼吸もいつもの穏や…

『1Q84』の隠喩表現に関する補足

今までこのブログは二回に渡って『1Q84』の解説をおこなってきた。 卵を温めることについて書いた小説 - コスタリカ307 逆方向の力 - コスタリカ307 本稿ではこれまで議論してきた『1Q84』の隠喩表現について整理をおこない、また補完をおこなう。その性質は…

『海辺のカフカ』におけるメタファーの性質

本稿では『海辺のカフカ』のメタファーの持つ性質と、それが物語の上で果たす役割について説明する。 主体がメタファーを作り上げる 一読して、難解な小説だと思った。この小説には「メタファー」という言葉があちこちに出てくるので、この記事ではその意味…

逆方向の力

前回(リンク)に引き続き、本稿では『1Q84』の比喩の性質への理解を深めるために議論をする。そのために、次のような形で先行する文学作品が『1Q84』に影響をおよぼしていることを説明する。 『失われた時を求めて』 → 『豊饒の海』 → 『1Q84』 『1Q84』と…

卵を温めることについて書いた小説

卵を温めるための自律的なルール 村上春樹は『1Q84』において、一定の型をもった表現をくりかえし書いた。その型とは、一つの容器が与えられた時に人はその中身に対してどのように振る舞うべきか、ということに焦点を合わせたものだ。 はじめ容器の中身は空…

比喩を剥ぎとる

パロディの例 パロディという表現技法がある。先人の作品を参考にして、それを自分流に書き換える形で引用するという手法だ。『1Q84』はこのテクニックの宝庫であるから、この小説から一つ例を取って見てみよう。 リーダーを暗殺した青豆は新築マンションの…