プルースト

僕にとっての最大のテーマ

僕にとっての最大の文学的なテーマは死だ。それに興味がある。ふりかえってみると僕の心に残っている小説はどれも死を中心に据えていた。『失われた時を求めて』、『カラマーゾフの兄弟』、『豊饒の海』などだ。 文学とは何だろうか。それは結局は物語だ。レ…

二つの道

物語の普遍的な構造の一つに二つの道というものがある。楽な道と困難な道の二つが主人公の前に示されており、主人公はどちらを選ぶか逡巡するというものだ。 それは通常、どちらが楽でどちらが困難なのか、そしてどちらが正しくてどちらが間違っているのかは…

『スワンの恋』を読む

プルーストは『失われた時を求めて』を書くに当たって、作中にいくつかの山場を設定した。大変長い物語を読むのは読者にとって苦痛であることを彼はよく承知していたので、彼らが最後まで興味を失わずに読み進められるよう、エンターテイナーとして盛り上が…

冒頭に置かれた矛盾

冒頭に矛盾した表現を置いている小説は数多い。それらはしばしば小説のテーマと関わりがあり、新しい作品世界を立ち上げるための起爆力にもなっている。次にひとつ例を挙げる。 長いこと私は早めに寝むことにしていた。ときにはロウソクを消すとすぐに目がふ…

『海辺のカフカ』におけるメタファーの性質

『海辺のカフカ』には「メタファー」という言葉が頻繁に登場するのだが、これは本作を読み解く上での鍵となっている。そこで本稿ではその意味や性質について整理してみた。 主体がメタファーを作り上げる 簡潔に述べると、『海辺のカフカ』流の「メタファー…

逆方向の力

本稿では前回(リンク)に引き続き『1Q84』について議論をする。そのために次のような形で先行する文学作品が『1Q84』に影響をおよぼしていることを説明する。 『失われた時を求めて』 → 『豊饒の海』 → 『1Q84』 『1Q84』と『失われた時を求めて』 『1Q84』…

卵を温めることについて書いた小説

卵型の暗喩 小説『1Q84』の中核を成しているのは卵型の暗喩である。同作には容器や部屋にまつわる表現が多様な形をとって随所にあらわれるが、それらはいずれも「卵を温めてヒナを孵す」という行為のヴァリエーションになっている。いくつか例を挙げて確認し…

『豊饒の海』と『百年の孤独』の共通点

共通点を挙げる 『豊饒の海』と『百年の孤独』には共通点が多く、興味深い。まずは思いつくままにそれらを列挙してみよう。 物語の冒頭から終盤まで出ずっぱりの登場人物が一人いる。彼・彼女は若い頃は影が薄く、物語の主人公を他の者に譲っているが、終盤…

比喩を剥ぎとる

『失われた時を求めて』を本歌取りした小説 三島由紀夫の『豊饒の海』には『失われた時を求めて』のパロディ・シーンが数多く登場する。本稿ではまずその場面を拾い上げ、次にパロディの狙いについて考えていく。 例えば『春の雪』で清顕が聡子とともに雪の…