『ノルウェイの森』を読む

本記事では村上春樹の『ノルウェイの森』を読み解いていく。引用時に示したページ数は講談社の文庫版にもとづいている。 歌詞との関連 まずはビートルズの曲について確認していこう。 歌詞のくわしい解説がこちらのページにあったので、参考にさせてもらった…

『ささやかだけれど、役にたつこと』を読む

カーヴァーの短編『ささやかだけれど、役にたつこと』について書く。 物語の骨格 カーヴァーはこの小説を書く際に、普段は接近することのない二つの人間の層を念頭に置いた。ひとつは落ちぶれたみじめな生活を送りながら、親しい人もいない孤独な人達。もう…

『海辺のカフカ』読解メモ・下巻

別記事からの続き。 P6 「星野青年」。 P61 ナカタさんと星野青年も図書館に行き着く。主人公の泊まっている図書館とは別だが、図書館であることに変わりはない。そこで彼らは調べ物をする。 P66 入り口の石を探していると、カーネル・サンダースが星野青年…

『海辺のカフカ』読解メモ・上巻

以前『海辺のカフカ』を読んだ時にメタファーについて説明する記事を書いた。 そのまま一回しか読まずに置いていたので、最近再読を初めた。以下は頭から読んでいった時のメモである。ページ数は文庫版に準拠している。この記事では上巻を扱う。 P43 主人公…

非対称な一対の存在

『1Q84』を読んでいてつくづく思うのは、この作品は論理の構築物であるということだ。これほど理路整然としたパズルも他にない。この記事では、本作の随所に顔を出す「非対称な一対の存在」について言及していく。 不揃いのペア 『1Q84』には“海”を軸にした…

『ドラゴンボール』における代替わりというテーマ

本稿では漫画『ドラゴンボール』のセル編の物語について解説する。セル編は単行本の28巻から35巻までに収録されている。 親子のヴァリエーション セル編にはさまざまな親子の組が登場する。まず冒頭にフリーザ親子が出てくる。次いでトランクスとベジータ、…

『ダンケルク』を観る

クリストファー・ノーランの『ダンケルク』を観た。ともかく、終始誰かから何かを貰いっぱなしという映画だった。主に戦地にいる兵士たちの視点で物語が進んでいくのだが、彼らは死んだ兵士から靴を貰い、水筒を同僚の兵士に分けてもらい、撤退する船では温…

冒頭に置かれた矛盾

冒頭に矛盾した表現を置いている小説は数多い。それらはしばしば小説のテーマと関わりがあり、新しい作品世界を立ち上げるための起爆力にもなっている。次にひとつ例を挙げる。 長いこと私は早めに寝むことにしていた。ときにはロウソクを消すとすぐに目がふ…

岩明均における母というテーマ

この記事では岩明均の作品に見られる母親というテーマを確認する。 二つの大きなエピソード まずは『寄生獣』のプロットを見ていく。この物語の中で一番大きな位置を占めている事件は、母親の身体を乗っ取った寄生生物に主人公が心臓を破られて、殺されかけ…

『騎士団長殺し』第1部・2部の概観

この記事では村上春樹の『騎士団長殺し』の第1部・2部について、一読して気がついたことを記載している。つっこんだ考察はおこなっていない。 移動について 『1Q84』は二つのパートに分かれて話が進むが、天吾の側はあまり移動せず部屋にとどまるのに対して…