『ダンケルク』を観る

クリストファー・ノーランの『ダンケルク』を観た。ともかく、終始誰かから何かを貰いっぱなしという映画だった。主に戦地にいる兵士たちの視点で物語が進んでいくのだが、彼らは死んだ兵士から靴を貰い、水筒を同僚の兵士に分けてもらい、撤退する船では温…

冒頭に置かれた矛盾

冒頭に矛盾した表現を置いている小説は数多い。それらはしばしば小説のテーマと関わりがあり、新しい作品世界を立ち上げるための起爆力にもなっている。次にひとつ例を挙げる。 長いこと私は早めに寝むことにしていた。ときにはロウソクを消すとすぐに目がふ…

岩明均における母というテーマ

この記事では岩明均の作品に見られる母親というテーマを確認する。 二つの大きなエピソード まずは『寄生獣』のプロットを見ていく。この物語の中で一番大きな位置を占めている事件は、母親の身体を乗っ取った寄生生物に主人公が心臓を破られて、殺されかけ…

『騎士団長殺し』第1部・2部の概観

この記事では村上春樹の『騎士団長殺し』の第1部・2部について、一読して気がついたことを記載している。つっこんだ考察はおこなっていない。 移動について 『1Q84』は二つのパートに分かれて話が進むが、天吾の側はあまり移動せず部屋にとどまるのに対して…

指の多義性

本稿では『多崎つくる』について、三つの項目を書いた。なおこれまでの記事はこちら。 二重の自己 『多崎つくる』の作中では、自己との解離、分裂、あるいは二重性という現象について繰り返し言及がなされている。 前回の記事で語ったように、主人公は自分の…

因果関係というテーマ

本稿はこちらの記事から続いている。 riktoh.hatenablog.com “無害” なミステリー小説 『多崎つくる』の主人公に与えられる問いは「友人に絶縁された理由は何か」というものだ。これは因果関係を把握するという問題に等しく、この種の問題意識が本作のあちこ…

影としての作品

本稿では『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が『1Q84』のペアとして存在している作品であることをまず述べる。その後べつの記事で、この事実を手がかりにして両作に共通する因果関係というテーマを読み解いていく。 自動車 vs 電車 『色彩を持た…

分裂と統合

『1Q84』には同じ名詞や字句のくりかえしが作中に頻繁に現れる。本稿ではその表現の持つ文学的な意味を探究する。 同じ字句の繰り返し 次の一文は、天吾が『空気さなぎ』の改稿許可を得るために戎野先生に初めて会いに行く場面から引用したものである。 呼吸…

『1Q84』の隠喩表現に関する補足

今までこのブログは二回に渡って『1Q84』の解説をおこなってきた。 卵を温めることについて書いた小説 - コスタリカ307 逆方向の力 - コスタリカ307 本稿ではこれまで議論してきた『1Q84』の隠喩表現について整理をおこない、また補完をおこなう。その性質は…

『海辺のカフカ』におけるメタファーの性質

『海辺のカフカ』には「メタファー」という言葉が頻繁に登場するのだが、これは本作を読み解く上での鍵となっている。そこで本稿ではその意味や性質について整理してみた。 主体がメタファーを作り上げる 簡潔に述べると、『海辺のカフカ』流の「メタファー…